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選択力とは? 〜大人向け〜 「いろいろな知識を覚えその場その場に応じて必要な知識を選択する力」をここでは『選択力』と呼ぶことにします。算数(数学)はこの『選択力』を育成するのにぴったりな教科だと思います。 なぜ選択力が大切なのか 私はメーカーの開発部門で働いていた時期があるのですが、新製品の開発にはまさにこの「いろいろな知識を覚え、その場その場に応じて必要な知識を選択する力」が必要なのです。現状の製品に何かしら問題がある。その問題点を解決するためにはどうすればよいのか?持てる知識を総動員して、この場合にはどの手法を使えば解決できるのか、より適切な方法を選択する…。 新製品の開発を例にあげましたが、人生の色々な場面で問題が発生した場合、ほとんどの人はそうやって問題を解決しているのだと思います。この力は生きていくために絶対必要な力で、そして算数の文章題や図形の問題を問題を解くことによって育成できる力だと私は考えています。 文章題や図形の問題が選択力を育成する 文章題の中には問題を解くのに必要な数字が出てきます。計算を1回すれば答えの出る問題であれば、普通は問題文中に2つの数字が出てきます。生徒は問題を読み、内容をよく吟味して、この2つの数字を足すのか、引くのか、かけるのか、割るのかを選択することになります。 答えを出すのに複数回の計算を要求されるような問題であれば、「まずこの数字とこの数字を足してから、その答えにこの数字をかける」といったようにより高度な『選択力』が要求されることになります。 図形の問題であれば、小学5年生の角度の問題を例にしても、基本的なものだけ考えても、「360°、180°、90°の大きさ」「対頂角」「平行線と角度(同位角、錯角)」「多角形の内角の和」「二等辺三角形の性質」「正多角形の性質」は知っている必要がありますし、より応用的な問題まで解くことを考えれば「三角形の外角の定理」や「多角形の外角の和」なども知っておいた方が有利です。 角度の問題を解くには、まず問題文を読んで、これらの知識のうちどれを利用して解くのかを考える必要があります。そしてこれを2回、3回と組み合わせて解く問題であれば、ほとんど無限に近い組み合わせがある。角度の問題を解くことはこの「いろいろな知識を覚え、その場その場に応じて必要な知識を選択する力」を育成するのにぴったりだと思います。 選択力の不足が表面化しにくい現状 そして、先ほど書いたことを逆に考えれば、ズバリ「文章題や図形の問題を苦手としている場合、この『選択力』が順調に育成されていない可能性が高い」ということになります。 ところが非常に残念なことに現行の小学校、中学校のカリキュラムではこの『選択力』の育成が不十分であるという重大な問題点が表面化しにくいのが現状なのです。 例えば次のようなテストがあるとします。 このテストの解答は 1 (1)12,(2)28,(3)111,(4)124,(5)195 2 25−13= 12(個) 3 32−13= 19(人) 4 152−31=121(人) 5 133−24=109(番目) 6 125−38= 87(ページ) となります。このテストの中で2〜6の5問は文章題ですが、残念ながらこの5問の文章題には『選択力』を測定したり、『選択力』を育成する機能はありません。 なぜならば、このテストの1(1)〜(5)の計算問題5問はすべてひき算で、残り5問の文章題もすべてひき算であろうことは容易に想像できるからです。この安易な想像を裏切ってくれる素敵なテストプリントは、私の知る限りほとんどありません。このタイプのテストや問題をどれだけ勉強しても、『選択力』は育成されないし、『選択力』が育成されていないといった現状は表面化しないことになります。 選択力の不足はゆっくり時間をかけて進行する では『選択力』の育成が不十分であるという重大な問題点が表面化するのはいつなのか。おそらく小5で割合の3用法を学ぶときではないかと思います。ここでは文章題を読んで、かけ算かわり算かを選択する必要があります。それまでに小2ではたし算とひき算を見分ける問題を学習したり、小4で角度の問題を学習したりする機会はあるのですが、量も難易度も今ひとつで本当に『選択力』が試されるほどではありません。 小5の割合の3用法で、つまずく生徒が多いのはこういった理由からだと私は考えています。何とか頑張って割合の3用法を乗り切ってしまうと、次に『選択力』が本格的に必要となるのは中2で「証明」を学習するときになります。。中学生になると方程式を学習します。この方程式というのはなかば万能ともいえるほど便利な道具です。したがって方程式を学んだあとの文章題はほとんど方程式で解けるので選択の余地がない。文章をどうやって方程式にあてはめるかの勝負になるわけです。そうすると中学校では『選択力』を育成する機会があまりないわけです。ただし、「証明」問題を解くためにはこの『選択力』が必要になるわけで、ここまで学習を進める過程で『選択力』が育成されていなければ、「証明」が苦手になるのもある意味必然の流れといえるのではないでしょうか。 そして選択力の不足は表面化する ところが「証明」が苦手でも公立高校の入試問題程度であれば、80〜85点くらいを取るのは難しいことではありません。他の科目で点数が取れれば、地区トップの進学高校に合格することもできます。しかし、さすがにこの状態で高校(特にトップ進学校)の数学を乗り切るのは難しい。 この時点で『選択力』の不足は一気に表面化します。高校数学で苦戦する生徒が多いのも、小学校1年生のときから長い間『選択力』を磨く勉強ができていなかったのが原因だと思います。 実は中学受験を志した場合、この問題はもっと早く表面化します。中学入試問題は文章題ひとつとっても高いレベルの『選択力』を求められる問題が多い。長い間中学受験を志す生徒達を担当してきましたから、この段階で算数の苦手化が表面化して苦しんでいる生徒を数多く指導してきました。「こんなに努力しているのに、どうして成績が上がらないの…」なんて相談されると、私もかなり切なくなります。そして「絶対成績あげてやるからな」って思うのです。 どうしたら確実に選択力がつくのか 先に「文章題と図形の問題が選択力を育成する」と書きましたが、図形の問題を確実に解ききるためには高いレベルの『選択力』と、もうひとつあるコツが必要になります。従ってとりあえずまず確実に『選択力』をつけるためには、文章題、特によく考えて設計されたレベルの高い文章題にチャレンジする必要があります。 例えば先に例示した確認テストも このように作りかえれば、『選択力』を試すよいテストになると思います。作りかえたのは 5 133+24=157(番目) 6 125+38=163(ページ) の2問です。PDFファイルをつけておきますので、できたらお子様に解かせてみるとよいかと思います。小学校2年生の問題ですが、小学校6年生くらいまでは使えると思います。 test2.pdf へのリンク 解かせながらじっくり解く様子を観察してください。1〜4で間違える生徒はあまりいないと思います。5と6をどのように解くかが観察のポイントです。普通このタイプのプリントでは当然5,6は引き算になりますが、このプリントでは5,6が足し算になっています。そうはいっても小2レベルの問題なので、問題をしっかり読んで選択していれば、足し算と気づくのはそれほど難しいことではありません。 しかし日頃問題をしっかり読んで解く訓練ができていなければ、うっかり引いてしまうかもしれません。5や6で引いてしまった生徒は日頃『選択力』を鍛える訓練がうまくできていない可能性があります。5と比較すると6は足し算と気づきやすいように設計されています。「ぜんぶで」という足し算に使われることの多いキーワードが使われているからです。6で「あっ!たし算もあるんだ」と気づいて、5も直せるようでしたらまだ傷は浅いと思います。一方6まで引いてしまった場合には事態はより深刻だといえるでしょう。 文章題をたくさん解いて、『選択力』を鍛えたいとお考えの場合には、ぜひ下の<文章題を得意にしたい>から先に進んでみてください。 |