算数得意化プロジェクト
算数が得意になりたいと願うすべての子どもたちのために…

 表現力とは? 〜大人向け〜

 文部科学省が行った全国学力テストでも、「〜を説明しなさい」といった、表現力を問う問題が何問かみられました。確かに自分の考えや意見を誰にでもわかりやすく表現するといった能力は、私がメーカーに勤務していたときでも、新製品をユーザーにPRしたり、そのための資料を作ったりする場面で必要でした。それ以外にも、自分の取り組みたい企画を通すために上司に説明したりする場面でも表現力は必要とされます。そういった意味でも、『表現力』を育成しておくということはとても大切なことだと思います。

他者に伝達するための表現力

 先にあげた「自分の考えや意見をわかりやすく説明する」能力を『表現力』と考えるならば、これは他者に伝達するための手段としての『表現力』ということになります。だとすれば『表現力』が本格的に鍛えられる場面は、中2で「証明」を学習するときが初めてで、小学校の間にこの能力を「算数」の中で育成する場面はほとんどないと考えます。実際小6の生徒に「〜を説明しなさい」といった種類の問題を授業でやっているかどうか聞いたところ、「授業内でそういった意見を発表する場はあるけれど、文章として表現する練習は算数の授業の中ではほとんどやったことがない」といった意見が大半でした。
 そういった視点から考えると、先に行われた全国学力テストで「〜を説明しなさい」といった形式の問題が出題され、その問題の正答率から『表現力』の育成の成果を判断するといった話になっているとするならば、それにはちょっと無理があるような気がします。日頃から練習していないことがテストで急にできるようにはならない場合が多いと考えるからです。

もうひとつの表現力

 私は表現力にはもう一つの側面(段階)があると考えています。中学受験を志す場合、小学生であっても非常に難しい文章題を解くことになります。問題が複雑になればなるほど、文章を読んですぐに立式をすることが困難になります。そうするとこれまで

文章を読む→式を立てる→計算する→答え

という流れで解けていたものが、

文章を読む→文章を読んでわかったことを図や表にまとめる→式を立てる→答え

といったように、もうひとつステップを挟まないと解くことが困難になります。そしてこの文章を読んでわかったことを図や表にまとめることが上手な生徒ほど、算数(数学)の能力も高いのではないかと思います。
 私がメーカーに勤務していたときでも、現状の製品に問題が発生した場合に、まずその問題点を紙の上に整理し、それを見ながら解決法を考えるといった作業は頻繁に行っていましたし、私たちの日常生活でも解決困難な問題が発生したときには、1旦問題点を紙にまとめたり、頭の中で整理してみるといった作業をしている人は決して少なくないと思います。そして、問題点がきれいに整理されてしまえば、その時点でほとんど解決法がはっきりしてしまうこともよくあることだと思います。
 そういった意味においてはこの文章を読んでわかったことを図や表にまとめる力も『表現力』といっていいのではないかと思います。この先話をわかりやすくするためにこちらの『表現力』を『第2の表現力』と呼ぶことにします。この『第2の表現力』が高いほど問題解決力が高いと言えるのではないでしょうか。

表現力は育っているのか

 『第2の表現力』であれば、小学生でも鍛えられる場面はいくらかあります。例えば、割合の3用法を解く場面で、私は迷ったら図で表現する方法を推奨しているのですが、



この図で表現するといった練習がこの『第2の表現力』を育成しているのだと思います。
 「ミックス文章題」や「ハイブリッド文章題」を解くときにも、わからなかったら図で解いてよいと言っているのは、もちろんこの『第2の表現力』の育成を意識してのことです。
 ところが、この『第2の表現力』については、残念なことに十分に育成されていない生徒が多いのです。その理由はいくつか考えられますが、その中でも最も影響が大きいと考えられる要因は、これまでの指導の中で式を偏重していることではないかと思います。
 すべての問題を式だけで何とかしようとするとどこかで行き詰まります。そのときに図に戻れる生徒ははっきり言って強い。あくまでも式にこだわってそれで何とかしようとする生徒は、努力の方向が微妙にずれていってしまうように思います。
 だから、わからなかったらまず図にしてみようといった指導をぜひ推奨したいと思います。

どのようにして表現力を育成するか

 ではどうやって表現力を育成していくのか。小学生の間はこの表現力を育成する大チャンスです。式だけだとちょっと難しい、図をかかないと解くのがちょっとしんどいといったレベルの文章題をたくさん練習してください。「ミックス文章題」や「ハイブリッド文章題」の中にはそのレベルの問題が何問も含まれていますし、現在作成中の「ハイレベル文章題」はそもそも図や表をかかないと解けない設計になっています。ぜひ計画的に勉強して、小学校を卒業する頃までには、「ハイレベル文章題」までクリアできるように頑張ってください。